青梅街道・柳沢峠越え

2002年4月29日


 窓の外でさえずるシジュウカラの声で4時半頃、目が覚めた。今日はサイクリングに出かけるつもりだが、行き先が決まらないまま、ベッドの中でグズグズしていて、5時半にようやく起床。6時過ぎに出発。
 海よりは山へ行きたい気分だったので、愛車と一緒に京王線で高尾駅へ。その間に今日は塩山まで行って柳沢峠を越えて奥多摩へ抜けようと決める。
 高尾から中央線に乗り換え。沿線の山々は新緑に包まれ、藤や桐の薄紫色の花が咲いている。
 塩山到着、9時15分。
 駅前で自転車を組み立てていると、タクシーの運転手が寄ってくる、というのはよくあるパターンだ。運チャンによれば、柳沢峠の標高は1,470メートルで、塩山が380メートルぐらいだという。
「だから、(標高差は)1,200メートルぐらいあるね」
 ちょっと計算、違うと思いますけど…。

 9時25分に塩山駅前をスタート。コンビニに寄って、おにぎりや水、お菓子などを調達。
 青梅街道に入ると、塩山の街なかからいきなり急な上り坂。すぐに街を抜けて、あたりは静かな山里の雰囲気になってきた。桃やブドウなどの果樹園が多い。



 端午の節句が近いので、青い空に鯉のぼりが泳いでいる。この地方の鯉のぼりは2本立てで、1本は普通の鯉のぼり、並んで立つもう1本には家紋や「風林火山」などの文字や武者絵が描かれた幟がはためいている。
 とにかく、まったく日陰のない坂道をどこまでも上っていく。早くも汗だくで、かなり辛い。当然、何度も休む。

 9キロほど上って「大菩薩の湯」という温泉センターが見えてくるあたりからカーブが多くなった。山からウグイスやオオルリやカケスの声が聞こえてくる。振り返れば、甲府盆地の彼方にまだ雪をかぶった南アルプスが微かに望まれる。

 大菩薩峠への道が右に分かれ、さらに上って、塩山駅から10キロほどで裂石パーキングという休憩所に着いた。時刻は10時40分。ここで5分休憩。
 あたりの山は新緑が美しく、山の中にちらほらと桜も咲いている。休んでいる間はとても気持ちがいい。ホオジロやヒガラの声が聞こえる。



 ハーフループの新しい高架橋をぐいぐい上って、雲峰寺第2トンネル、雲峰寺第1トンネルをくぐると、橋の下の谷から聳える木のてっぺんにオオルリがいた。ほとんど目の高さで、距離は15メートルほどか。肉眼でも美しいコバルトブルーの羽色がはっきり分かる近さである。さかんにさえずりながら、何度も飛び立って、ひらひら舞いながら虫を捕まえては、同じ場所に戻ってくる。これほど間近でオオルリをじっくり観察できたのは初めてで感激した。

 勢いよく下ってくるロードレーサーの集団とすれ違い、上萩原第2トンネル、上萩原第1トンネルをくぐる。この区間は新しく建設されたルートで勾配も比較的緩やかで、いくらか走りやすい。相変わらずオオルリの声があちこちで聞こえ、センダイムシクイの声も加わった。

 やがて工事区間にさしかかる。この先も新しい道路が建設中で、未完成の高架橋が見えるが、現在の道は幅も狭まり、勾配もきつい。おまけにヘアピンカーブの連続である。



 腹が減ったので、峠に着いてからと思っていたおにぎりを食べながら、ノロノロと上る。道路沿いに山ツツジやスミレやヤマブキが咲いている。



 そろそろ峠かな、と思っても、はるか高いところに白いガードレールが見えたりするので、「もうすぐだ」とは考えず「まだまだ先だぞ」と自分に言い聞かせながら黙々と目の前の坂を克服していくと、ふいに「柳沢峠」の標識が現われた。
 12時10分、ついに柳沢峠に到着。塩山から19キロ。標高は1,472メートル。東京タワーの3倍以上の標高差を上ってきたわけで、すっかりバテバテだが、なんとも言えない達成感と解放感がある。
 峠にはクルマやバイクで来た人がたくさんいて、茶店もあった。空気が澄んでいれば富士山が見えるはずだが、今日は霞んでいて、どこにあるのか分からない。あたりはカラマツがようやく芽吹き始めたところで、まだ早春のたたずまいだ。



 峠で25分休んで、12時35分に出発。「青梅60㎞ 丹波山19㎞」の標識がある。
 重力に任せてグングン加速していく快感はなんとも言えないが、路面状況が必ずしもよくないので、スピードを出すと、ちょっと怖い。安全第一で下ろう。反対側からも自転車が次々と上ってくる。
 峠を越えても、まだ山梨県塩山市だが、峠の北側は多摩川の源流域であるため、東京都の水源林として保護されている。そのため、豊かな広葉樹林が山を覆い、今はピカピカの新緑。あまりにきれいで、感動する。紅葉の季節も素晴らしいだろうなぁ、と思う。





 美しい山里を過ぎ、快調に下っていく。



 やがて、一之瀬川の谷にかかる橋を渡って、塩山市から丹波山村に入り、すぐに落石防護の覆道をくぐる。深い峡谷にへばりつくような険しい道で、崖下の急流は丹波渓谷というそうだ。輝くような緑と白い水飛沫。一気に走り過ぎてしまうのがもったいなく思えるほどの、まさに絶景の連続。長く複雑にさえずるミソサザイの素晴らしい歌声も聞こえてきた。




 柳沢峠から19キロで丹波山の集落に着いた。時刻は13時25分。ここに温泉があるので、寄っていこう。
 駐車場に自転車を止め、丹波川にかかる吊り橋を渡ると、丹波山温泉「のめこい湯」。入浴料600円。肌がすべすべになりそうな、なんとも気持ちのよいお湯で、露天風呂もあって、行楽客で大いに賑わっていた。
 地元の物産の直売所を見て、14時20分に出発。ここからは下る一方でなく、何か所か上りもあったが、大したことはない。
 「お祭」という名の土地を過ぎるあたりから丹波川の水が緑色の淀みに変わってきた。奥多摩湖にさしかかったらしい。そして、丹波山から30分、8キロほどで東京都奥多摩町に入り、あとはずっと湖に沿って走る。この区間は道幅が狭く、急カーブとトンネルが続き、交通量も多いので、細心の注意が必要で、景色を楽しむゆとりはあまりない。



 15時30分に小河内ダムに着いた。ここでも30分ばかり休憩。
 小河内から奥多摩駅のある氷川までの約6キロもずっと下り勾配だが、やはり狭いトンネルが連続し、交通量も非常に多いので、慎重に行く。小河内ダムの建設資材運搬用に敷設された鉄道のトンネルや橋が左手斜面の上方に今も残っているのがちらちら見える。

 とにかく、ひたすら安全運転に専念していると、頭上から何やらキィーキィーと声が聞こえたので、慌ててブレーキをかけて、声がした地点までバックすると、なんとサルだった。東京都内で野生のサルを見るのは初めてだ。木が茂っているので、正確な数は分からなかったが、10匹近くはいるようだった。1枚だけ写真が撮れた。

(東京の野生ザル)

 16時30分に氷川を通過。まだ下りが続くので、青梅あたりまで走ってみよう。
 左にJR青梅線、右に多摩川の渓谷を見ながら走り続け、17時30分に青梅駅前に到着。塩山から84キロ。ここからは電車で帰った。


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