積丹半島  8月11日

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     積丹半島西海岸

 岩内のホテルで迎えた朝。5時起床、6時出発。気温は17度。

(青い屋根が泊まった岩内マリンホテル)

 まだ人通りもほとんどない岩内の街をあとに国道229号線を行く。
 しばらくは平坦な田園地帯だったが、8キロほど走って原子力発電所のある泊村に入ると、日本海沿いになり、さっそくトンネルをくぐったり、アップダウンがあったりする。ここから積丹半島である。

 積丹はその大部分が山地で、海岸部は山がそのまま海に落ち込む険しい断崖絶壁となっている。
 泊村の役場がある集落を過ぎると、地形は峻険になり、急カーブとトンネルの連続になった。トンネルは幅が狭くて、かなり怖い。兜岩、マウンテンゴリラ岩などと名づけられた奇岩、巨石が点在する海岸風景は素晴らしいが、神経をつかう区間でもある。
 しかし、ここでも北海道のほかの土地と同様に道路のつけかえ工事があちこちで進んでいた。従来の道路は海岸の地形に忠実に建設され、急カーブと狭くて短いトンネルが多いが、この旧道を廃して、海岸地形とは無関係に山の中を長大なトンネルでぶち抜く新ルートが建設されているのだ。新しいトンネルは幅が広くて走りやすいが、味気なくもある。

 岩内から
25キロ走って7時半に神恵内(かもえない)の中心集落に着いた。港の駐車場で小休止。珍しく白いハマナスが咲いていた。
 朝食がまだなのだが、この時間では店も開いておらず、何も買えないまま先へ進む。
 陽が高くなって積丹西海岸にも光が射してきた。日本海も青さを増し、カモメがのどかに飛び、ウミウが翼を休めている。
 岩礁の多い海中には崩れかけた石積みの堤防があちこちで波に洗われていた。まるで古代遺跡のようだが、ニシン漁が栄えた明治以降に築かれたものだろう。
 山ではエゾゼミのほかミンミンゼミやニイニイゼミが鳴いている。

 

 5キロ行くと道の駅があったが、ここもまだ閉まっている。岩内で食料を調達しておかなかったことを後悔したが、もう遅い。あぁ、腹が減った。コンビニ文明に慣れすぎて、ついうっかりしていた。今のところ、エネルギー源は岩内のホテルでペットボトルに詰めてきた水だけだが、これが東京の水道水とは全然違って美味い。恐らくニセコ山系の地下水が水源なのだろう。

 道の駅を過ぎるとまたトンネルの連続となった。ところどころで滝が流れ落ちている。海の水はとてもきれいで、岩礁が透けてみえる。



 820分、珊内(さんない)という小さな集落でようやく商店が開いていて、パンとコーヒーが買えた。集落を抜けたところで海を眺めながら朝食。岩内から35キロの地点である。
 15分休んで845分に出発。休憩中にマウンテンバイクの青年に抜かれた。

 

 積丹半島は先端部ほど山が高く、最高峰の余別岳1,298メートルもある。山塊がそのまま日本海にせり出した海岸の地形も一段と豪快で、海上にも巨大な岩山がそそり立ち、その造形美の素晴らしさには息を呑む思いがする。

 

 しかし、険阻な地形に阻まれて道路の整備は遅れ、僕が初めて北海道を旅行した1980年代初頭の積丹半島西海岸はまだ神恵内からの船便が頼りだったと記憶している。この区間の道路が全線開通したのは1996年のことだ。まだ新しい道だから立派で幅も広く、歩行者などいないのに歩道まである。我々のような自転車や徒歩の旅行者用だろうか。これだけの用地があるということは海岸を埋め立てて造成したのだろう。




 9時10分過ぎに長さが1,835メートルもある西の河原トンネル(1996年開通、歩道あり)をくぐり、さらに大天狗トンネル、積丹トンネルを抜けると神恵内村から積丹町に入り、前方にめざす神威岬が見えてきた。



 親指のような形の巨大な岩が海中から突き出た神岬(こうざき)の海岸で少し休憩。時刻は945分。暑いので海辺に下りてジャブジャブと海水に足を浸すと、何とも言えず気持ちがいい。透き通った水の中でコンブが波に揉まれ、小魚がたくさん泳いでいた。

(神威岬から積丹西海岸を望む)


     積丹神威岬

 15分の休憩後、いよいよ神威岬へのラストスパート。だんだん上り坂になり、最後は9パーセントの急勾配を上って、1015分に積丹半島西北端の神威岬に到着した。ここまで岩内から52キロ。
 駐車場の片隅に愛車を残し、他の観光客に混じって遊歩道を歩き出す。岬の先端まで断崖上の尾根を行く小径で、片道20分ほど。



 かつては女人禁制だった岬にはハマナスやツリガネニンジン、ノコギリ草、エゾカワラナデシコなどが咲き乱れ、エゾフウロも可憐なピンクの花をつけていた。
 そして、海の色のなんという美しさだろう。明るく透き通ったエメラルドグリーンの海面の下で白い岩礁が輝き、どこか南国のサンゴ礁の海を思わせる。いつもは厳しい積丹の海が見せる、これは最も穏やかで美しい表情だろう。こんな風景に出会えることは旅の喜びであり、人生の幸せである。

 

 岬の先端には「白地に黒横帯二本塗、塔形、コンクリート造」の神威岬灯台がある。灯質は「単閃白光、毎15秒に1閃光」。高さは地上から頂部が10.7メートルで、水面から灯火までが81メートルだから、この灯台の立つ断崖の高さは70メートルということになる。

 




     積丹半島の「うに丼」を食べる

 神威岬を1115分に出発して、積丹半島北海岸を東へ向かう。
 相変わらず海岸線は複雑で、絶景に次ぐ絶景だが、次第に海水浴客が目につくようにもなってきた。いかにも最果てを思わせた西海岸とは雰囲気が違うようだ。
 このあたりは札幌方面から気軽に来られる海水浴場なのだろう。先日のテレビニュースでは冷夏で道内の海水浴場はどこも閑古鳥が鳴いていると伝えていたが、夏空とともに夏の賑わいも戻ってきたようだ。

 1155分、日司という漁村で漁師が営む食堂を見つけ、ここで積丹名物の「生うに丼」を食べる。奮発して活うに(おまけで2匹)が付いたセット、3,000円を注文(ほかにイカの塩辛、漬物、味噌汁付き)。ご飯に新鮮な生うにがたっぷりのった「うに丼」にはわさび醤油をかけて味わい、まだ殻のトゲトゲ(触っても痛くない)が動いている活うに(キタムラサキウニ)は中身をスプーンでほじくって食べる(中がほとんど空っぽになってもトゲは動いていた)。まさに至福のひとときだが、隣のテーブルの若いライダーも感激の面持ちで、ひとり満面の笑みを浮かべて食べていた。あんなに幸せそうな人は久しぶりに見た。

     積丹岬

 大いに満足して1225分に出発。短いトンネルをいくつもくぐって5分も走れば、積丹半島の最北端、積丹岬である。自転車を押して急坂を上ったところが駐車場で、そこから遊歩道をさらに歩いて上ると積丹岬灯台があった。こちらは赤い帯を巻いた白い灯台が真っ青な海を見下ろしていた。灯台の概要を記した周知板は見当たらなかったので、灯質など詳しいことは不明。

 

 景勝地・島武意海岸の素晴らしい風景を眺めて愛車のもとへ戻る途中で、自転車旅行の青年に話しかけられた。自転車を離れていても、お互いに格好を見れば相手がチャリダーであることはすぐに分かる。彼は北海道一周中で、あとは日本海沿いに函館まで走ればゴールだそうだ。僕は昨日ニセコを越えてきたというと驚かれた。北海道一周の方が断然スゴイと思うが。

(島武意海岸)


     積丹東海岸

 これから岩内方面へ向かう彼と別れ、1305分に出発。ここからは積丹の東海岸を余市めざして南下していく。
 しばらくは海辺を離れ、山の中を走るが、意外に坂がきつく、しかも日陰が全くなくて、暑さに閉口した。気温は
30度近い。神威岬と積丹岬を制覇したことで積丹半島での目的はほぼ達した気になり、腑抜け状態。すっかりノロノロ運転である。
 ようやくまた海辺に出たところが積丹町の中心集落・美国。セイコーマートでシャーベットを買って、公園のベンチで一服。ふうっ。時刻は1410分。
 さて、余市まであと20キロ余り。もうひと頑張りだ。海水浴客で賑わう海岸に沿って、交通量の多い道を坦々と走る。



 積丹町から古平町を経て余市町に入るとすぐに豊浜という土地を通りかかる。平成8年2月、岩盤崩落により国道のトンネルが押しつぶされ、路線バスの乗客ら20人もの犠牲者を出した事故は記憶に新しいが、あれが豊浜トンネルだった。
 事故現場となったトンネルはすでに埋められ、代わりに2,228メートルもある新しい豊浜トンネル(歩道あり)が完成していた。

     余市

 出足平(でたるびら)峠という低い峠を越えて余市市街に着いたのは16時。道の駅があったので、そこでしばらく休憩。積丹半島を一周してきて、なんだかもう何もする気が起こらないぐらい疲れた。すでに今日の走行距離は110キロになろうとしている。
 20分ほど休んで、JR函館本線の余市駅に移動して、ここでまた休む。今夜は余市で泊まるつもりだったが、しばらく休むうちにもう少し頑張って小樽まで行ってしまおうと思い直した。あと20キロほどあるが、暗くなるまでには着くだろう。
 ということで、ここからは札幌へ通じる国道5号線を函館本線と並行して走る。
 腹が減ったので、途中のセイコーマートでおにぎりと水を買ってエネルギーを補給しつつ、相変わらずアップダウンの多い道を海を見ながらちんたら走り、オタモイ峠を越えて坂を下ると小樽の街に入り、1810分に小樽駅前に辿り着いた。ここまで岩内から130キロ。



     小樽

 小樽は観光地として最近とみに脚光を浴びていて、駅前にも観光客の姿が多い。夏休みだしホテルは混んでいるだろうから、どこかにテントを張ろう。近くにキャンプ場はないが、公園なら大丈夫だろう。
 夕暮れの運河周辺をしばらく走り回った後、港の近くに公園を見つけ、そこのグラウンド脇の草地にテントを張る。ほかにこんな場所でキャンプをしている人はいないが、散歩中の地元のおじさんによれば毎晩のように誰かがここでテントを張っているとのこと。そのうちライダーかチャリダーがほかにも来るかもしれない。



 それから小樽の街なかで夕食をとり、小樽天然温泉「湯の花」という日帰り入浴施設で一日の汗を流し、公園に戻ると、若いカップルが花火をしていた。相変わらず、ほかにテントは見当たらない。なんだかホームレスになった気分である。
 本日の走行距離は144.1キロ。



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