さよならのないカーニバル 作詞:森雪之丞 作曲:渡辺直樹 編曲:MMP
「さよならのないカーニバル」はキャンディーズのオリジナル楽曲の中でもスタジオ録音されることのなかったライヴ専用曲です。2回目の蔵前カーニバル(1976.10.11)のために作られ、最後に演奏されました(アンコールは「春一番」)。この音源は『蔵前国技館10,000人カーニバルVol.2キャンディーズ・ライブ』で聴くことができますが、後半のインストパートが編集された短縮ヴァージョンです。ちなみに作曲者の渡辺直樹(渡辺茂樹の弟)はMMPのベーシストで、当時まだ19歳でした(蔵前の2日後が20歳の誕生日)。
これ以降、ライヴのしめくくりに常に熱狂的な雰囲気の中で演奏される定番曲となり、アンコール後にMMPだけでの演奏がコンサートのエンディングテーマとなることも多かったようです。
ただ、“さよならのないカーニバル”ではなかった解散コンサートではこの曲が演奏されることはありませんでした。最後を「つばさ」ではなく、この曲で締めくくってほしかったというファンは少なくなかったかもしれませんが…。
また、1977年7月17日、日比谷野外音楽堂のライヴでも、この曲が始まる前にキャンディーズが突然の解散宣言を行ってしまったため、予定通りの形では演奏されず、ただラン・スー・ミキの声をバンドの音でかき消そうというスタッフの指示でMMPは大混乱の中、「さよカー」をやっています。突然のことでメンバーも相当動揺していただろうと思います。
蔵前2ではドラムス&パーカッションがリズムを刻み始めると、ギターもカッティングで同調し、ベースが唸りを上げるワイルドでゾクゾクするほどカッコいいイントロに続いてブラスやオルガンも加わってファンキーなテーマが演奏され、キャンディーズの歌が登場する展開ですが、それとは違って、エレクトリックピアノのみの伴奏でキャンディーズがラン→スー→ミキ→3人のコーラスでしっとりと歌い上げて、途中からバンドが加わって一気に盛り上がるパターンもありました。
いずれにしても、ロックバンドとしてのキャンディーズ+MMPの特別な関係を象徴する最高にカッコイイ楽曲といえます。
まだファンの誰もがキャンディーズから「さよなら」を告げられる日が来るなんて想像もしていなかった時期に生まれた曲ですが、ラン・スー・ミキの3人はこの曲が生まれた1976年秋がデビューから3年ということで、すでに近い将来の解散のことを考えていたようです。当時、どのような心境でこの曲を歌っていたのでしょう。そこまで想像すると、このどちらかというと陽性の曲を聴いていても、ちょっとせつない気持ちになります。
くちづけのあと 作詞:竜真知子 作曲:穂口雄右 編曲:穂口雄右
アルバム『年下の男の子』(1975.4.21)のB面1曲目に収録された作品です。しっとりとしたゆるやかな曲調で、ブラスによるイントロから3人の美しいハーモニーが聞かれます。リードヴォーカルはラン。かけ合うようなアルトサックスも印象的です。そして、サビにおける3人のコーラスはまさに絶品。このちょっぴり大人っぽい歌を最後はまたランがソロでしめくくります。
作詞の竜真知子さん(1951年生まれ)はキャンディーズに最も多くの詞を提供した作詞家で、のちに「ハートのエースが出てこない」を書くほか、狩人の「あずさ2号」、桑江知子の「私のハートはストップモーション」、サーカスの「アメリカン・フィーリング」、河合奈保子の「スマイル・フォー・ミー」など数多くのヒット曲を産み出すことになります。その竜真知子の作詞家としてのデビュー作がこのアルバムのために提供した「くちづけのあと」と「優しいだけじゃいや」の2曲です。キャンディーズの3人よりちょっと年上ですが、世代的に近い同性の作詞家の作品ということで、彼女たちにとっても新鮮だったのではないでしょうか。
キャンディーズ解散前に出版された『ばいばいキャンディーズ・キャンディーズ大百科』(ぺっぷ出版、1978.2.15)の中にランの自作詩「20才(はたち)の時」が載っていますが、その最後のフレーズ「♪午後のお茶のにがさが♪わかってもいいはずなのに…」は「くちづけのあと」の歌詞の冒頭「午後のお茶の苦さが今はなぜかわかるの♪」を受けたものです。この曲はランが20才の誕生日を迎えてまもなくのレコーディングだったのでしょうね。
アルバム『年下の男の子』について、ランが「初めてのオリジナル・アルバムで、私たちのハリキリ様はすごいものでした。スローな曲をソロで歌い、コーラスの楽しさ、むずかしさ等を教えてくれたLPです。気に入っている曲が沢山あります」というコメントを残しています(『キャンディーズ卒業アルバム』)。このソロで歌ったスローな曲というのは「くちづけのあと」だと思われます。
パステルカラーの水曜日 作詞:竜真知子 作曲:穂口雄右 編曲:穂口雄右
この曲も竜=穂口コンビの作品ですね。アルバム『キャンディーズ1 1/2』(1977.4.21)に収録されています。メインヴォーカルはスー。春の朝のウキウキするような情景を歌っていて、こういういかにもアイドルソングっぽい曲調は彼女にピッタリですね。まさにスーの魅力全開です。そして、そこにランとミキの声が重なって、キャンディーズならではのサウンドになるわけです。
「子供の頃から好きな季節よ♪」というフレーズは竜真知子さんがあらかじめ春、4月8日生まれのスーをイメージして書いたのでしょうか。竜さんにとってキャンディーズというのは作詞家として最初に詞を提供したアーティストであり、ラン・スー・ミキが作詞に挑戦し始めた当初、補作詞も担当したりしているので、きっと妹のように身近な存在だったのでしょう。そんな想像をすると、この作品などもお姉さんが可愛い妹のために書いたような暖かさが感じられます。
蛇足ながら、歌詞の中の「ひざしはオレンジ色のドレス♪」の「ひざし」がいつもなぜか「ヒロシ」に聞こえてしまって、聴くたびに一瞬、エッ?!と思ってしまいます(笑)。
Moonlight 作詞:伊藤蘭 作曲:伊藤蘭・渡辺茂樹 編曲:いしだかつのり
アルバム『早春譜』(1978.3.21)に収録されたランの自作曲で、ファイナルカーニバルでも取り上げられたことから彼女の代表作といっていいでしょう。
月影がさす都会の夜の情景を描くロマンティックなメロディに乗せて、愛を知りかけ、大人への階段を上る一歩手前で少しためらう女性の心理をうたっています。この曲もランならではの詩の世界ですね。
解散直前に発表された『早春譜』はキャンディーズとMMPのメンバーによる卒業制作的な自作自演集といえるアルバムですが、ヴォーカルに関してはラン、スー、ミキがそれぞれの自作曲を歌うという形になっていて、個人的には3人のコーラスで聴いてみたいなぁ、と思わせる曲もないわけではないのですが、この「Moonlight」などは立派にランのソロ作品として楽しめます。「女って不思議♪」とため息まじりに歌われるフレーズが耳に残ります。終盤のエレクトリックピアノも曲に深い余韻を与えているように感じます。
買い物ブギ 作詞:藤村美樹 作曲:藤村美樹・山田直毅 編曲:山田直毅&MMP
2枚組アルバム『早春譜』(1978.3.21)の最初に登場するミキの自作曲です。「買い物ブギ」というと、一般的にはブギの女王・笠置シヅ子のヒット曲が有名ですが(あちらは「買い物ブギ-」、1950年発売)、それとはまったく別の曲です。笠置の「買い物ブギ-」が大阪のオバチャン編だとすると、ミキの「買い物ブギ」は東京のお姉さん編ということになるでしょうか。というより、この詞はミキにしか書けない内容ですね。まさに“藤村美樹の買い物”ブギです。
1番は生活感あふれるハンバーグを作るための買い物で、しめて900円。2番はデートのためのニューファッションを渋谷・原宿・六本木でバーゲンにて買い揃え、しめて1万円。最も彼女らしさが表れているのが自宅でのダンスパーティーのためにレコードを買いに出かける3番です。Stevie( Wonder)、Diana Ross、 Marvin(Gaye)、 Roberta Flack、 The Beatlesと並べて「キャンディーズだって買ったわよ♪」が最高です。これで合計2万円。彼女にとってはきっとファッションよりも音楽が大切なんでしょうね。
作曲で協力している山田直毅はMMPのギタリストですが、ミキより3歳年下で、このレコードが発売になった時点で19歳になったばかり、作曲時はまだ18歳でした。ちなみに彼はのちにあの石川ひとみと結婚し、今も音楽の世界で活動しています。
とにかく、この曲はアレンジをMMPがやっているように、コーラスも含めてMMPというバンドの特性が最大限に生かされた演奏になっていて、その辺も聴きどころです。
ろうそくの灯に・・・ 作詞:伊藤蘭 作曲:伊藤蘭・山田直毅 編曲:穂口雄右
これも『早春譜』(1978.3.21)に収録された作品で、ランの作詞作曲です。作曲では上の「買い物ブギ」と同様に山田直毅が協力していますが、まったく違うロマンティックな曲調で、歌詞だけでなく、メロディーにもランの個性が強く出ています。そして、編曲の穂口雄右が素晴らしい味付けをして、この作品をこの上なく美しいものにしています。
この作品もヴォーカルは完全にランのソロですが、彼女ならではの声の魅力とともにメロディーにのせて詞を表現する力量も際立っています。ランがソロシンガーとしても比類なき存在であったことがよく分かります。
「幸せの向こう 必ずあるの そう別れが・・・」と歌われる詞が心に染みます。
アイドルに全曲の作詞作曲をさせて、それでアルバム(しかも2枚組)を作るというのはかなりの冒険だと思いますし、そんなアルバムを作ったアイドルがほかにいるのかどうか知りませんが、こうしてアルバム『早春譜』を聴いていると、キャンディーズって本当にすごいと思ってしまいます。
バス・ストップ 作詞・作曲:Graham Gouldman 日本語詞:片桐和子 編曲:穂口雄右
初期に戻って『危い土曜日~キャンディーズの世界』(1974.6.21)の収録曲。英国のバンドThe Hollies、1966年のヒット曲をブラス入りのサウンドに乗せて日本語詞で歌っています。メインヴォーカルはスー。彼女の歌唱力が圧倒的に素晴らしく、またランの高音ファルセットを生かしたハーモニーも美しくて、カバー曲なのに、まるでオリジナル曲であるかのように自分たちのものにしています。実際、スーの十八番的な作品となり、ライヴでも定番曲となっていきます。オリジナルと比較してどうこうではなく、素直に「キャンディーズっていいな」と思わせる説得力が感じられるカバーといえるでしょう。オリジナルは夏のバス停で始まった恋の物語を男性の視点で歌っていますが、キャンディーズヴァージョンは女の子の側に立って、季節の移ろいも織り込み、日本語詞を担当した片桐和子の詩的センスが光ります。