風の音楽~キャンディーズの世界♪
My Favourite CANDIES Part3





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 2015年11月4日からキャンディーズの全アルバム18タイトル、ならびに全シングル18タイトルの配信がスタートしました。楽曲数はのべ341曲。このページで紹介した曲もすべて聴けるようになりました。
 こちらからどうぞ。

 アンティック・ドール  作詞:伊藤蘭  作曲:伊藤蘭・渡辺茂樹  編曲:渡辺茂樹

 キャンディーズ解散直前に出たラン・スー・ミキ自作自演集『早春譜』(1978.3.21)に収録されたランの自作曲です。次々と人の手に渡っていく古い人形が歴代の主人を回想する形をとった詩は文学少女だった彼女ならではの世界ですね。あるいは、アンティック・ドールという存在にアイドルである自分自身を重ね合わせていたのかもしれません。イントロからチェンバロをフィーチャーした演奏はいかにもヨーロピアンでクラシカルな気品を漂わせています。
 この曲はファイナル・カーニバルのソロ・コーナーでも歌われました。その時、椅子に腰かけたランが腕に抱いていた人形は直前のヨーロッパ旅行の際にパリであちこち探し回って買ってきたものだそうです(という話をステージでしたらしいのですが、5万人の観客は叫びっぱなしで誰も聞いていなかった、と中村とうよう氏が『ニューミュージック・マガジン』1978年5月号で報告しています)。ただ、やっぱりあの熱狂的な巨大スタジアムコンサートではこのシットリとした曲の魅力は生かされなかったのではないでしょうか。中村氏が指摘するように大人になったキャンディーズが青春のアイドルから脱皮して彼女たちの年齢に相応しい歌をうたうようになるにつれて、スターになりすぎた矛盾が噴き出してきた、という指摘は当たっているように思います。中村氏は4ページにわたる解散コンサート評の中で、あのような場所(後楽園球場)とセッティングがキャンディーズのよさを最大限に引き出し得るものと言えたかどうかについて疑問に思うと述べ、そこにスターになりすぎた彼女たちの矛盾を見出したわけですが、にもかわらず、そうした矛盾を乗り越え、5万人の観衆に堂々と対峙し、コンサートを素晴らしいものにしたキャンディーズを「3人の“ふつうの女の子”はやはりスーパースターだった」と絶賛しています。
 


  季節の別れ  作詞:田中好子  作曲:田中好子・西慎嗣  編曲:田辺信一

 これも『早春譜』に収録されたスーの自作曲です。個人的には彼女の最高傑作ではないかと思っています。そもそも、山の手から武蔵野へと続く東京西郊の住宅街出身のランミキに対して、同じ東京でも足立区出身のスーはいかにも下町のおねえちゃんといった庶民性が持ち味で、そうした下町の風土や気質は彼女のキャラクターにも、そして自作曲にもかなり反映されていました。同時に3人の中で最年少でもあるスーが書く詞には恋に憧れ、ちょっぴり背伸びをしたようなものが目立ったようにも思います。たとえば、「ミッドナイト・ハイウェイ」とか「午前零時の湘南道路」「私の彼を紹介します」など。これらはあまりキャンディーズっぽくない曲だなぁ、と個人的には感じていました。
 そんな下町のおねえちゃん的作品群の中で、この「季節の別れ」はずいぶん大人っぽい作品になっています。彼女の書いた詞は簡潔ながらも深い詩情を湛え、MMPの西慎嗣と共作した曲も大変美しいものです。
 寄せては返す波のようなストリングスや風のようなフルート、そして、アコースティック・ギターやエレクトリック・ピアノからドラム、ベース、パーカッションまで非常にセンシティヴな演奏で、ミドルテンポのリズムに乗って美しいメロディーを紡いでいきます。そして、スーの少し鼻にかかった甘くソフトな歌声。ハーモニー・パートもすべて彼女が担当していますが、これはキャンディーズ・サウンドと呼ぶにふさわしい、スーの魅力が最大限に発揮された佳曲といえるでしょう。
 この曲は2枚組CD『ゴールデン・Jポップ/ザ・ベスト・キャンディーズ』に収録されています。


  For Freedom   作詞:藤村美樹  作曲:藤村美樹・渡辺茂樹  編曲:穂口雄右

 『早春譜』に収録されたミキの作品。曲名の“For Freedom”という言葉は解散コンサート(ファイナル・カーニバル)のタイトルとしても使われていたものですが、どちらが先なのかは分かりません。この曲は同コンサートでは演奏されていませんが、開演前に会場に流れていて、ランが緊張を紛らわすように口ずさんでいる映像が残されています。

「たくさんの悲しみ拾い集めて 空へ投げつけよう♪」
 フルートとストリングスをフィーチャーしたイントロに導かれて歌われる詞は解散を前にしたミキのメッセージ・ソングと言ったらいいでしょうか。もともと彼女の書く詞は、独自のロマンティシズムによって詩的世界を構築するランとも、いかにも乙女チックなスーとも異なり、自分の家族について歌ったり、日常のひとコマを歌にしたり、と虚飾を排して、等身大の自分を素直に打ち出す作風が特徴的です。この作品にもそんな彼女の飾り気のない誠実さが感じられて、心を打たれます(当然ですが、べつにランとスーが誠実ではない、というわけではないですよ)。
「悲しみから喜びへ変わるとき みんなの幸せを祈って…」
 
この「みんな」というのは自分を含めたキャンディーズ自身であり、彼女たちを支えたスタッフ、関係者、家族、そして彼女たちを応援してきたファンのことなのだろうと勝手に解釈して、彼女の熱いヴォーカルを聴きながら、心から「ありがとう」と手を合わせたくなります。まぁ、当時、彼女たちを熱心に応援したファンの中に僕が含まれるかというとかなり微妙なのですが。いずれにしても、これは名曲です。
 この曲も2枚組CD『ゴールデン・Jポップ/ザ・ベスト・キャンディーズ』で聴くことができます。


  あこがれ  作詞:藤村美樹  作曲:藤村美樹・渡辺茂樹  編曲:渡辺茂樹

 このコーナーでは僕のお気に入りのキャンディーズ・ソングを気の向くままに紹介しているわけですが、いつかは取り上げなくては、と思いながら、なかなか取り上げられなかったのがこの曲です。キャンディーズ・ファンにとってはあまりに神聖な曲で、軽々しく紹介できないな、と思っていたからです。でも、「For Freedom」を取り上げた流れで、続けてこの曲についても紹介します。
 一応説明しておくと、このミキの自作曲はアルバム『早春譜』のラストに収録された作品で、解散コンサートでも最終曲「つばさ」の前に演奏されました。恐らくスタジオ版よりもファイナルのライヴ・ヴァージョンの方が印象が強いのでは、と思います。それはまさに感動のシーンであり、ファンなら涙なしには聴けない曲なわけです。
 解散を前にして書かれたこの作品は、独り立ちへ向けた門出の歌であると同時に究極のラヴソングでもあり、キャンディーズの残した自作曲としてはランの作った「つばさ」(作詞のみ、作曲は渡辺茂樹)とともに双璧といえる重要な作品です。解散コンサートの最後に「年下の男の子」でも「春一番」でも「微笑がえし」でもなく、この曲を持ってきたということがキャンディーズにとってもこれが大切な作品であることを物語っています。
 スタジオ版ではミキの完全なソロですが、ファイナルでは1番がランスーミキの順にソロで歌ってサビは3人で、2番はミキスーランの順に歌ってサビはやはり3人で、というパターンです。そして、歌い終えた後、高らかにギター・ソロが鳴り響く中、こみ上げる涙をこらえながら、周囲をぐるりと取り巻くスタンドの大観衆を、そして夜空を見上げる彼女たちの表情の神々しいほどの美しさが印象的です。この「あこがれ」から3人の最後の挨拶、そして「つばさ」へと続くクライマックスはぜひとも映像で見てほしいと思います。決して大げさではなく、人類史上でも滅多に見られないほどの人間の最も美しい感情の表出をラン・スー・ミキの3人が見せてくれます。
 しかし、ファイナル・カーニバルのライブ盤CDでは、この「あこがれ」が収録されておらず、DVD『キャンディーズ・フォーエバー』でも「あこがれ」の2番がカットされてしまっています。こんなことが許されていいのか、と思います。ファイナル・カーニバル完全版はなんとしても出してほしいです。


  土曜日の夜  作詞:田中好子  作曲:田中好子・西慎嗣  編曲:穂口雄右

 解散後に出た3枚組『キャンディーズ・ファイナル・カーニバル・プラス・ワン』(1978.5.21)のラストに収録されたスーの作品。自作自演集『早春譜』に収録しきれなかった曲でしょう。キャンディーズのオリジナル・アルバムを順番に聴いていくと、一番最後に登場する曲でもあります。
 スーらしい甘いラブソングをおしゃれなジャズ・アレンジで聴かせます。7分を越える長い曲ですが、スーの歌は最初の3分の1程度で、残りの3分の2はインスト・パートとなります。アルトサックスが朗々と歌い、ギターやピアノ、ドラムスなどもそれぞれに自己主張しつつ、徐々に加速して、キャンディーズの音楽ヒストリーのラストシーンを大いに盛り上げてくれます。


  エトセトラ   作詞:島武実  作曲:穂口雄右  編曲:穂口雄右

 5枚組『キャンディーズ1676日』(1977.12.5)に収録された曲で、同日発売のシングル「わな」と同じコンビによる作品です。これは初めて聴いた時から大好きでしたが、改めて聴くと、詞・曲ともにかなり斬新な作品です。しかも、オシャレ。クールで透明感のあるフュージョン/クロスオーヴァー系の曲調とサウンドで、ピアノ、ギター、サックス、ドラム、パーカッション、ストリングスと各楽器それぞれに聴きどころがあるのですが、とりわけベースがいい味出してます。
 そして、キャンディーズのヴォーカルはミキのソロから始まって、ランミキランスーランスーといった具合にソロ、コーラスともメインがめまぐるしく入れ替わっていきます。これこそまさに究極のキャンディーズ・サウンドと言っていいのではないでしょうか。こういう曲がひっそりとアルバムの中に隠れているからキャンディーズは30年聴いていても飽きないわけですね!


  SEXY  作詞:藤村美樹  作曲:藤村美樹・渡辺直樹  編曲:渡辺直樹

 キャンディーズの自作自演集『早春譜』のために作られたものの、収まりきらずに解散後に『ファイナル・カーニバル・プラス・ワン』(1978.5.21)で発表されたミキのソロ。曲はMMPのベーシスト渡辺直樹との共作です。クルマやバイクの音、人の話し声、犬の声(?…人間が鳴きマネしているような…もしかしてミキちゃん?)など街のノイズが効果音として曲の前後や曲中に散りばめられ、不思議なムードの曲です。バックはアコースティック&エレクトリック・ギターとベース、パーカッションはリズムボックスでしょうか。ゆったりとしたサウンドにのせてミキがハスキー・ヴォイスで思いっきりムーディーに歌っています。ハーモニー・パートもすべてミキですが、男性コーラスが効果的に使われています。


  シュガー・キャンディ・キッス  作曲・作曲:Wayne Bickerton/Tony Waddington  訳詞:森雪之丞  編曲:馬飼野康二

 アルバム『キャンディ・レーベル』(1977.8.1)に付属していた4曲入り17cmコンパクト盤に収録され、『キャンディーズ1676日』にも別ミックスで収録された曲で、後者はタイトルも“Sugar Candy Kisses”と英語表記でした。ちなみに作詞・作曲者は「シュガー・ベイビー・ラブ」と同じコンビです。
 オリジナルはトリニダード島出身で英国育ちの兄妹デュオMac&Katie Kissoonによる全英3位のヒット曲(1975年)で、オリジナルに準じたアレンジがなされていますが、キャンディーズ・ヴァージョンの方が若干テンポが速いようです。ヴォーカルはランで、Katieのヴォーカル(セリフ入り)とは違った味が出ています。実際、このタイトル通りに歌詞もサウンドもスウィートな曲はランが歌うのにぴったりで、彼女の声の魅力によって新たな生命が吹き込まれ、より洗練されたイメージに仕上がっているように思います。窓から差し込む朝日に包まれるようなあたたかい気持ちになれる曲。


  ガラスの星  作詞:喜多條忠  作曲:三木たかし  編曲:三木たかし

 これも『キャンディ・レーベル』の収録曲です。しあわせいっぱいの「シュガー・キャンディ・キッス」とは対照的に悲しい曲で、エレクトリック・ピアノと寂しげな口笛によるイントロからハイハットが静かに刻むリズムの上をシンセサイザーとストリングスが舞う幻想的なサウンドにのってランがソロで歌っています。ソロといっても同じメロディラインを二重(三重?)に録音しています。寒空に瞬く星をじっと見上げているような、寂寥感が漂う、でも大変美しい佳曲です。

 「ランのメモ/今年8月('77)の梅田コマのステージをやっている期間にとったものです。ミキとスーはホテルに帰ったのに私は一人スタジオの中。さみしかったなぁ。そんな雰囲気がこの歌から感じられるような気がします。」(『キャンディーズ卒業アルバム』)

 ツアー先の大阪までスタッフが追いかけてきて、ライヴが終わった後、深夜にアルバム用のレコーディングをしていたんですね。


  朝のひとりごと  作詞:竜真知子  作曲:宮川泰  編曲:竜崎孝路

 アルバム『春一番』(1976.4.1)に収録された、詞も曲もアレンジも秀逸な佳曲です。喧嘩別れしてしまった相手への絶ち切れない想いをミキがソロでゆるやかなワルツにのって切々と歌っています。ブラスが牧歌的でのどかな、でも少し気だるい日曜日の朝の雰囲気を醸し出す一方で、ストリングスは主人公の女性のメランコリックな心情に寄り添い、まるで映画音楽のように情景が目に浮かびます。男声コーラスが起用されていますが、それと掛け合う女声コーラスはキャンディーズではないようにも聞こえます。実際はどうなんでしょう。


  はぐれた小鳩  作詞:山上路夫  作曲:森田公一  編曲:馬飼野俊一

 いきなり初期に飛びます。1stアルバム『あなたに夢中/内気なキャンディーズ』(1973.12.5)に収録された「はぐれた小鳩」。当時の歌謡ポップスの典型的なスタイルで、こうなると、スーの出番です。やはり、こういう曲調には彼女の声がぴったりですね。だからこそ、初期キャンディーズにおいて、スーがメイン・ヴォーカルに起用されたのでしょう。
 デビュー当時のキャンディーズは渡辺プロダクションの先輩アイドルだった天地真理の曲を手掛けた山上=森田コンビがメイン・ライターで、まだ、キャンディーズ・サウンドは確立されていないわけですが、それでも、サビのパートにおけるランミキスーが追いかけるようなコーラスなど、キャンディーズらしさは感じることができます。いずれにせよ、スーの持ち味が生かされた愛らしい作品です。


  愛への出発(スタート)  作詞:岩谷時子  作曲:筒美京平  編曲:竜崎孝路

 これもアルバム『あなたに夢中/内気なキャンディーズ』の収録曲です。このアルバムはA面がオリジナル、B面が同時代の歌謡曲カバーで構成されており、この曲はB面1曲目、郷ひろみの曲をミキが歌っています。ミキはこのアルバムで野口五郎「君が美しすぎて」も歌っていて、そちらは僕もオリジナルを知っていましたが、この曲のオリジナルは記憶にありませんでした(郷ひろみの4thシングルなんですね)。なので、最初にこれを聴いた時はキャンディーズのオリジナルかと思ってしまったほど、ミキが歌っていても違和感がありません。というより、両者を聴き比べても、ミキに軍配を上げたくなるほど健闘しています。そもそも、デビュー当初の郷ひろみは我が家では、そのファニー・ヴォイスのせいで、ちょっと笑いを誘うような存在だったと記憶しています。当時、子ども心にも、西城秀樹はカッコイイと思いましたが、郷ひろみはカッコイイとは思いませんでした。彼は年齢を重ねた現在の方が遥かにカッコイイですね(と急いでフォロー)。
 それはともかく、ワウ・ギターを使った、ちょっと時代がかったイントロ(これはオリジナル・アレンジを踏襲)に続いて聞こえてくるミキの声はスーのいかにもアイドル歌謡向きの声に比べると、やわらかさに欠けるのですが、そのまっすぐのびやかに歌う感じが独特の魅力を発しています。
 「ちょっとボーイッシュ」というキャッチフレーズほど当時のミキがボーイッシュだったとは思いませんが、キャンディーズの3人の中でこの曲を歌うとしたら彼女しかいない、と思わせるほどハマっています。総じて、キャンディーズについては、デビュー当初から最後まで、3人の声の個性を生かした選曲やアレンジ、パート分担がなされていて、たとえば、このパートはミキよりランが歌った方がいいのでは、なんてことを思わせることはほとんどありません。つねに適材適所。どの曲においても、それぞれの個性が光っています。


  JOLENE  作詞・作曲 Dolly Parton   編曲:馬飼野康二

 中学生になって英語を習い始めた頃から洋楽のレコードを少しずつ買うようになりました。初めて買った洋楽は当時流行っていたアバだったと思います。で、歌詞カード片手にレコードを聴きながら、いつも一緒に歌っていました。特に好きな曲などは英語の歌詞をカタカナに直し、何度も聴き直してカタカナ表記をオリジナルの発音に近づけていく作業を熱心にやったり、単語の意味をいちいち辞書で調べたりもしたものです。なので、NHKの『わが愛しのキャンディーズ』で、ファイナル・カーニバル前の合宿でスーちゃんが鉛筆片手に「宇宙のファンタジー」をラジカセで聴きながら練習している映像を見た時は、「あ、僕も同じようなことやってたなぁ」と懐かしく思ったものです。彼女もきっと歌詞をカタカナで書いて覚えていたのでしょうね。
 ちょっと話が逸れますが、当時の洋楽の歌詞カードは最初からオリジナルの歌詞が付いているのなら問題はないのですが、そうでない場合、日本側のスタッフが聴き取った歌詞を記載しているものが少なくありませんでした。これがかなりいい加減で、中学生でもここは違うだろ、と思うような間違いも多く、また、聴き取れない場合には「・・・」で誤魔化しているものもありました(その頃好きだったエアロスミスなどは「・・・」が特に多かったような記憶があります)。訳詞にも明らかな誤訳が少なくなく、かなりズサンなものがありました。最近はどうなんでしょう。閑話休題。
 さて、そこで、「ジョリーン」です。これはアルバム『キャンディーズ1 1/2』(1977.4.21)に収録されていますが、オリジナルはドリー・パートンだったんですね。僕はオリビア・ニュートン・ジョンだとばかり思っていました。実際、キャンディーズ版を聴く以前にオリビア版のレコードを買ったのですが、「ジョリーン、ジョリーン、ジョリ~ン、ジョ~リ~イ~ン~♪」までは歌えても、その先は難しくて全然歌えませんでした。なので、キャンディーズの「ジョリーン」を聴いたときは驚きましたね。みんなちゃんと英語で歌ってる! しかも、英語の発音は苦手そうなスーちゃんまでちゃんと歌ってる(ように聞こえる)…って。
 でも、これはさすがに彼女たちも苦労したみたいです。ミキ「『ジョリーン』の英語がむずかしくて、全員集合の楽屋で由紀さおりさんに教えてもらったりして四苦八苦。とにかく苦労したLPです」と書いています(『キャンディーズ卒業アルバム』)。
 この曲では終盤のランのソプラノが聴きどころです。


  (THEY LONG TO BE) CLOSE TO YOU  作詞:Hal David  作曲:Burt Bacharach

 カバー曲をもうひとつ。カーペンターズでおなじみの「Close To You」です。デーヴィッド=バカラックのコンビによる名曲ですね。キャンディーズはこの曲のスタジオ録音は残していないのですが、そのかわり絶品のライヴ録音があります。1976年10月11日、蔵前国技館でのキャンディーズ10000人カーニバルVol.2でこの曲が取り上げられ、そのライヴ盤『キャンディーズ・ライヴ』(1976.12.5)に収録されています。
 ほぼオリジナルに忠実なアレンジで、キャンディーズはユニゾンで歌い、ハーモニー・パートはバックのMMPのメンバーに任せていますが、彼女たちの声の魅力、キャンディーズの良さがしみじみと感じられる名演です。ただ、熱狂的な観客はかなり騒がしく、ちゃんと聴いているとは言えません。でも、それも当時の雰囲気を伝える貴重な記録なのでしょう。
 ランによれば、このライヴは「選曲にも自分たちから積極的に意見を出して決めました」(『キャンディーズ卒業アルバム』)ということなので、この曲を取り上げたのも彼女たちの好みが反映しているのかもしれません。そもそもバカラックの作品とキャンディーズというのは相性がよさそうに思います。キャンディーズによるバカラック名曲集みたいなレコードが作られていたら、きっと永遠に聴き継がれるような名作に仕上がっていただろうなぁ、と思います。


  キャンディ・サンデー  作詞:喜多條忠  作曲:馬飼野康二  編曲:馬飼野康二

 LP『キャンディ・レーベル』(1977.8.1)に付属していた4曲入りコンパクト盤の収録曲で、スーをフィーチャーしたカントリー風の曲です。前作『キャンディーズ1 1/2』の中ではジョン・デンバーの「Take Me Home Country Roads」を取り上げていましたが、この手の曲をキャンディーズが歌うと、曲の持つ爽やかな魅力が一層引き立つように思います。


  FANTASY  作詞・作曲:M.White/V.White/L.Dunn/P.Bailey

 Earth,Wind & Fireの1977年の名曲、当時「宇宙のファンタジー」の邦題で日本でも大ヒットし、僕もシングルレコードを買ったものです。この曲をキャンディーズはファイナル・カーニバルで取り上げていて、そのライブアルバム『キャンディーズ・ファイナル・カーニバル・プラス・ワン』で聴くことができます。当時の後楽園球場における解散コンサートは、アーティストにとってもスタッフにとっても、そのような巨大スタジアムでのコンサートのノウハウが日本ではまだ確立されていない時代に、暗中模索しながら、ほとんど手作り感覚でやり遂げてしまった快挙だったわけですが、今なら大会場でのライヴには不可欠とされるイヤモニターなど存在しない時代、現代のアーティストには想像もできないであろう劣悪な条件下で、よくぞこれだけ完璧にハモれるものだと感心させられ、なおかつキャンディーズのすごさを再認識させられるパフォーマンスと言えるでしょう。ほぼオリジナルに忠実なアレンジですが、恐らく、バックの演奏もお互いの声も聞こえづらかったはずで、もはや自分を信じ、仲間を信頼して、心の中の音楽にあわせて歌うしかない状況だったのではないか、と想像しています。のちにスペクトラムに発展するMMPの演奏力とキャンディーズの実力がみごとに一体化した、まさに神がかり的な名演です。また、この曲を聴いていると、やはりキャンディーズの音楽におけるミキの重要性というものがよく分かります。


  MIDNIGHT LOVE AFFAIR  作詞:M.Jourdan 作曲:P.Groscolas  編曲:あかのたちお

 キャンディーズに限らず、当時の歌手はアルバムやコンサートで洋楽カバーを取り入れるということが珍しくありませんでしたが、やはり英語の発音が弱点になるケースが多かったように思います。こんなことはもちろん自分の英語力は棚に上げて言うわけですが、キャンディーズについても、それは言えたと思うのです。なので、キャンディーズの作品に関して、総じて僕は洋楽カバーより日本語のオリジナル作品の方により魅力を感じます。だから、たとえばカーペンターズの“All You Get From Love Is A Love Song”のカバー「ふたりのラヴ・ソング」の成功はもちろんミキの歌唱の素晴らしさが最大の要因であるのは言うまでもありませんが、日本語詞で歌ったことも大きかったと思うのです。むしろ、日本語で歌ったことで、かえって全世界的な普遍性すら持ちえたと思うほどの素晴らしい成果です。
 そんな風に考えるわけですが、キャンディーズの数ある洋楽カバー作品の中にもあまり日本人特有の弱点を感じさせず、それどころか心から素晴らしいと思える作品が存在することは確かです。上の「宇宙のファンタジー」をはじめ、すでに取り上げた作品がその一部です。
 そして、ここで取り上げる「Midnight Love Affair」もまた傑作です。オリジナルはアメリカのディスコ歌手キャロル・ダグラス(Carol Douglas)の1976年の作品で、キャンディーズは5枚組『キャンディーズ1676日』(1977.12.5)で取り上げています。多くの方がオリジナルを超えていると評価していますが、僕も賛同します。ソロを交えつつ繰り広げられるキャンディーズならではのカラフルなハーモニーが圧倒的に素晴らしく、オリジナルよりも華やかな印象です。コーラスグループとしてのキャンディーズの実力を見せつけた作品といえるでしょう。


  悲しみのヒロイン  作詞:伊藤蘭  作曲:伊藤蘭・西村耕次  編曲:田辺信一

 解散を前に発表されたキャンディーズの自作自演集『早春譜』に収録されたランの自作曲です。作曲はMMPの元ギタリスト、西村耕次(現在は宝塚歌劇団の音楽監督をやっているようです)が協力しています。
 ピアノによるイントロにドラム、オーボエ、ストリングス、ギター、ベースなどが加わってロマンティックなメロディーを奏で、バックのコーラス(これもランの声でしょうか)もどこか淋しげな風情を湛えています。
 詞はランならではのさまざまに解釈できそうな深みのある内容で、アイドルが作詞にチャレンジしてみました、というレベルをはるかに超えた作品だと思います。
 この曲を改めて聴きながら、「私は解散を決めた時、変な気持ちを感じた。表面的には熱くなり、仕事を頑張っていたのですが、自分の中心は冷えていた。解散の騒ぎが大きくなっていくにつれて孤立している自分を感じました」という蘭さんの回想(野地秩嘉『芸能ビジネスを創った男~渡辺プロとその時代』、173頁、新潮社、2006年)のことを考えました。
 アイドルが人間の理想(たとえば理想の恋人だったりお姉さんだったり妹だったり…)を具現化した偶像だとすると、ファンがアイドルに対して抱くイメージはアイドル本人の自己イメージからどんどん乖離していきます。そこでファンのイメージを裏切ってでも自分らしさを貫いていくという方向性と、あくまでもファンの共同幻想の囚われ人としてアイドル=悲しみのヒロインを演じるという方向性があると思いますが、キャンディーズの場合はテレビやライヴ、あるいはラジオなどで様々なキャラクターを使い分けつつ、二つの路線の中間領域で絶妙のバランスをとっていたように思えます。それでも、アイドルの自我意識とファンの想いの間には、つねにすれ違いの可能性が潜んでいることも確かなのでしょう。
 そんなアイドルであることの孤独と、一方でファンに対する想いの、どこか矛盾する複雑な心理が描かれているのかな、と考えてみたのですが…。これは同じアルバムに収録された「アンティック・ドール」とも共通した心情に思えます。

 赤いリンゴかじり はだしのまま歩きたい…
 いつも思うだけ ヒールに疲れたかかとを撫でながら


 ここには等身大の自分以上の存在に見せるための小道具としての「ヒール」をもう脱ぎ捨ててしまいたい、つまりアイドルであることに疲れ、もう解放されたいという気持ちが感じられます。でも、それは「いつも思うだけ」だったのです。

 幼いこのわたし 大人にしたあなたよ
 甘えてばかりのわがままなわたしに とても優しい人…


 ここは普通にラブソングとしての解釈も可能ですが、この「優しい人」は解散宣言を許容したファンのことだという解釈も成り立ちそうです。そうすると、続く最後の歌詞の意味も明白になります。

 その笑顔よく見せて
 もう少し笑ってね
 別れの時の前に 覚えておきたいあなたを


 曲はこのあと2分近くにわたって、ピアノをバックにスキャットによって主旋律をなぞりつつ、深い余韻を残して、静かに消えていきます。


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