風の音楽~キャンディーズの世界♪

My Favourite CANDIES Part2

『夏が来た!』


 

 キャンディーズのオリジナル・アルバムの中で一番好きなアルバムは何か、と聞かれたら、僕の場合、まず心に浮かぶのが『夏が来た!』(1976.7.21)です。
 夏のはじめから秋風の吹くころまで、季節の移り変わりの中でのひと夏の物語が紡がれていくような作品です。明確なストーリーがあるわけではないですが、アルバム全体をトータルな作品として聴きたい一枚です。もちろん、個々の楽曲も傑作揃い。ムーンライダーズのメンバーが参加して、ニューミュージック風の曲が多くなるなど、新境地を切り開いた作品と言えるでしょう。
 この「My Favourite CANDIES」のコーナーではこれまで僕のお気に入りの曲をランダムに取り上げてきましたが、今回はLP『夏が来た!』特集ということで、行ってみましょう。暑苦しさとは無縁のキャンディーズならではの涼しげで爽やかな夏の作品集です(って、これを書いているのは冬なんですが…)。

 2015年11月4日からキャンディーズの全アルバム18タイトル、ならびに全シングル18タイトルの配信がスタートしました。楽曲数はのべ341曲。このページで紹介した曲もすべて聴けるようになりました。
 こちらからどうぞ。


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  A‐1 HELLO! CANDIES  作詞:竜真知子  作曲:宮本光雄  編曲:船山基紀

 アルバムのオープニングにふさわしいカッコイイ作品ですね。僕がキャンディーズのベスト盤を編集するとしたら、迷わず1曲目にこれを持ってきます。
 ドラム、パーカッション、ベースといったリズム隊が生み出す疾走感。そして、ブラス、ストリングス、キャンディーズのスキャット、さらにアルトサックスのかけあい。とりわけ、シンセサイザーの使い方がこの作品の斬新さを象徴しているように思います。これはインスト曲なのかな、と思い始める70秒過ぎにようやく歌が出てきます。インスト・パートと歌のパートがほとんど対等の作品で、バックの演奏は打ち込みが主体になってしまった最近のポップスでは味わえない70年代サウンドの魅力を満喫できます。
 


  A‐2  危険な関係  作詞:竜真知子  作曲:宮本光雄  編曲:船山基紀

 「Hello! Candies」と同じ作家陣による「危険な関係」。この曲でも引き続き斬新なシンセ・サウンドが印象的です。「おっ、カッコイイな」と思った1曲目に続いて、この曲が聞こえてきた時点で、このアルバムが傑作であることが確信に変わるでしょう。
 1曲目もそうですが、この曲も誰がリードヴォーカルということはなく、3人の見事なユニゾンとハーモニーを聴くことができます。
 歌詞の中に「ピカピカに磨いた赤いポルシェ」というのが出てきますが、「真っ赤なポルシェ」の山口百恵「プレイバックPart2」より先ですね。百恵ちゃんはNHK出演時、私企業のブランド名のポルシェがNGで、「真っ赤なクルマ」と歌わされたという話は有名ですが、もしキャンディーズがこの曲をNHKで歌っていたとしたら(歌ってないけど)、やっぱり「赤いクルマ」になっていたのでしょうか。ちなみに百恵ちゃんは1978年の紅白歌合戦で、この曲を紅組のトリで歌っていますが、その時は堂々と「真っ赤なポルシェ」と歌(ってしま)いました。
 同じ1973年デビューのキャンディーズと山口百恵、その後、あまりに潔すぎる解散/引退を決行したことで伝説となった両者ですが、まるでイメージの異なる存在同士だったせいか、僕の中ではキャンディーズと山口百恵が共演していたという印象があまりありません。でも、ランちゃんと百恵ちゃんは気が合ったようで、楽屋でもよく話をしていたそうです。そこで将来の解散や引退について語り合っていたのかどうかは分かりませんが…。キャンディーズのファイナル・カーニバルの客席にも山口百恵の姿があったという話ですね。「(解散は)もったいない…」ってつぶやいたとか。


  A‐3  夏が来た!  作詞:穂口雄右  作曲:穂口雄右  編曲:穂口雄右

 キャンディーズ10枚目のシングル曲。僕は毎年、夏が来るとこの曲が聴きたくなります。もう少し具体的にいうと、まだ梅雨入り前の新緑の輝く季節に肌をなでる風の感触に夏の訪れを感じたりすると、この曲が無性に聴きたくなるのです。聴いているだけで、青い空、輝く緑、白い雲、青い海…そんな映像が浮かんできます。キャンディーズの夏歌というと「暑中お見舞い申し上げます」が有名ですが、僕はこちらの方が好きです。
 珍しく一人称が「僕」で歌われるこの曲は作詞・作編曲を担当した穂口氏によれば、元々、キャンディーズのために書かれた作品ではなく、タイトルも違っていたそうです(人気アイドルあいざき進也のために書かれたという説がありましたが、雑誌『昭和40年男』2013年8月号の穂口氏へのインタビュー記事によれば、1975年デビューの女性歌手・青木美冴のために書かれたということです)。なぜそれがキャンディーズに回ってきたのか、詳しい事情は知りませんが、でも、キャンディーズにぴったりの爽快な曲です。エレクトリック&アコースティック・ギター、オルガン、ベース、ドラムというシンプルなバンド編成での軽快でスピード感のある演奏もいいですね。


  A‐4  MY LOVE  作詞:竜真知子  作曲:丹羽応樹  編曲:船山基紀

 エレクトリック・ピアノとトライアングルによるイントロにドラム、男声のスキャットとフルート、ストリングス、ギター、ベースなどが加わると、スーがムーディに歌い出します。とてもロマンティックな曲想をもつ佳曲です。ほとんどスーがひとりで歌っていて、ランミキはわずかにハーモニーを添えるだけです。
 作曲の丹羽応樹(にわ・まさき)さんは女性の歌手・作編曲家だそうですが、キャンディーズに曲を提供した女性作曲家というのはラン・スー・ミキ本人を除けば丹羽さんが唯一です。
 


  A‐5  さよならバイバイ  作詞:椎名和夫  作曲:椎名和夫  編曲:鈴木慶一とムーンライダース

 この当時、ギタリストとしてムーンライダーズに在籍した椎名和夫が作詞・作曲を担当し、編曲も「鈴木慶一とムーンライダース」(クレジットでは最後がと、濁りません)による作品です。イントロのストリングスからひんやりとした空気感が漂います。夏といえば暑いのが当たり前ですが、涼しさというのも夏ならではの感覚でしょう。この曲のサウンドも清涼感にあふれています。
 最初にソロをとるのはミキ。そして、サビのコーラスは曲調がガラリと変わってスーが主旋律、ランがファルセットで高音部、ミキが低音部というお馴染みのパターン。2番はスーがソロで歌った後、また3人のコーラス。ここまで主人公は、「あなたと海辺のドライブをしたい」とか「海辺のレストランに行きたい」とか「時計はしないできて」とか色々要求して「それがだめなら、さよならバイバイ」というちょっとわがままな女の子を演じておきながら、一転、ランがソロで「ほんとはみんなウソなの、何もかも本気じゃないのよ、あなたをひとりじめしたいだけのそれだけのことなの~」と告白するという展開です。そして、最後はまたAメロ~サビを今度は3人一緒に、というパターン。この3人が声を合わせて歌っている感じがまたいいんですよね。名曲です。


  A‐6  めぐり逢えて  作詞:たきのえいじ  作曲:水谷公生  編曲:渋井博

 このアルバムは本当に好きな曲ばかりなのですが、名曲はまだまだ続きます。LPではA面ラストに収録された「めぐり逢えて」。作曲の水谷公生はキャンディーズの育ての親ともいうべき穂口雄右、担当プロデューサーの松崎澄夫が在籍したGSバンド、アウトキャストのリーダー/ギタリストでした。その縁でキャンディーズのレコーディングにもギタリストとして数多く参加し、印象的なプレイを聞かせてくれていますが、作曲家としてキャンディーズに曲を提供したのは、これが唯一でしょう。
 リードヴォーカルはミキ。せつなげなメロディと歌詞が胸にしみます。さまざまな楽器が使われていますが、何よりもミキのしっとりとした歌声に終始寄り添うアコースティックギター(弾いているのは作曲者本人でしょうか)が素敵です。そして、ランスーのコーラスが加わると、これはもう至高の世界。たまりません。こうして、静かにA面が終わります。


  B‐1  SAMBA NATSU SAMBA  作詞:森雪之丞  作曲:馬飼野康二  編曲:馬飼野康二

 B面はキャンディーズの持ち前の弾けるような明るさが発揮された楽しい曲で始まります。リード・ヴォーカルはラン
 
「ランのメモ/サンバのリズムで軽快に仕上っていますでしょ? 最初の楽器をならしてるのは、何と私たちなのです。聴き苦しいかな? “夏が来た”とこの曲のどちらをシングルにしようかと争ったのです。レコーディングの最中にふざけていた私たちの笑い声が入っているのですが、あとで聴いてみてビックリしました」(『キャンディーズ卒業アルバム』シンコー・ミュージック、1978年)

 ランが書いているようにイントロで3人がさまざまなパーカッションを鳴らしています。


  B‐2  行きずりの二人  作詞:たきのえいじ  作曲:穂口雄右  編曲:穂口雄右

 左右から聞こえてくるラフな感じのギターのリフと重量感のあるドラム&パーカッションが印象的な曲。これもすごくイイですね!
 季節は夏の終わり。旅先の海辺で知り合った、でも名前も住所も知らない「あなた」とはそれきり別れてしまい、もう会うこともできない。夏のまぶしい出来事も過去のものとなり、もう秋がやってくる。主人公の女の子はあの夏の日の大事な忘れ物を探すように郊外電車に揺られ、ひとり海辺の町にたたずんでいる、そんな歌です。
 1番は3人のユニゾン→ミキのソロ→3人のコーラス、2番はスーのソロ→ランのソロ→3人のコーラスへという展開です。


  B‐3  季節のスケッチ  作詞:椎名和夫  作曲:椎名和夫  編曲:船山基紀

 弾むようなチェンバロによるイントロから軽快なリズムに乗ってミキがリード・ヴォーカルをとっています。ストリングス、ブラス、パーカッションなども効果的に使われ、爽やかな風を感じる、なんとも洒落たサウンドです。主役はあくまでもミキですが、サビの部分でランスーがハーモニーを重ね、間奏ではランのファルセットを主体としたスキャットも聴けます。

 見あきた景色が生き生きみえる それが泣きたいほどうれしい
 私もう一人じゃ生きて行けない つきなみな言葉だけれど


 曲名は前年のアルバム『その気にさせないで』収録の「秋のスケッチ」を想起させますが、「秋の~」がひとつの恋の終わりを歌っていたのに対して、この「季節のスケッチ」は象徴的な言葉を用いて恋の始まりの予感を歌っています。
 


  B‐4  MOON DROPS  作詞:堤けい  作曲:岡田徹  編曲:鈴木慶一とムーンライダース

 ムーンライダーズのキーボード奏者・岡田徹が書いた、とてもロマンティックでドリーミーな、でもどこか淋しげな風情をたたえた曲。編曲と演奏もムーンライダーズのメンバーが担当しています。男声ファルセット主体のコーラスもそうでしょう。
 オルガンやピアノ、シンセサイザーなどキーボード主体のサウンドはプログレ・テイストをも感じさせ、浮遊感のあるジャジーなギターもイイ感じ。
 ヴォーカルはラン。彼女の魅力が最大限に発揮された、多くのファンに愛される曲で、もちろん、僕も大好きです。ミキスーはお休みのようです


  B‐5  雨の日に偶然  作詞:堤けい  作曲:岡田徹  編曲:船山基紀

 作詞・作曲は「Moon Drops」と同じですが、全く印象の異なる曲調です。ミドルテンポのリズムにフルートとストリングス、さらにギター、キャンディーズのスキャットなどが加わるイントロ、そして、ソロ・ヴォーカルはミキです。いつもとは違ったぶっきらぼうな感じで、つぶやくように歌っています。伴奏はチェンバロ、バックに男声のコーラスも聞こえます。サビの部分のハーモニーは2声ですが、どちらもミキの声です。つまり、これはほとんど完全なミキのソロですね。部分的にミキの声がユーミンぽく聞こえるのは僕だけでしょうか?

 (2023年9月追記)
 キャンディーズデビュー50周年記念CDボックス「Candies The Platinum Collection」に収録された伊藤蘭さんと藤村美樹さんの対談の中で美樹さんがこの曲に関して「コレの私の歌い方がちょっとイヤ」「私はなんでこんな歌い方をしちゃったかなぁ・・・って反省」していると語っていますが、蘭さんが「今さらイヤだって言ってもねえ(笑)、これが良いんじゃない!」とおっしゃる通りです! ちなみにこの対談でお二人が共通して好きなアルバムとして「夏が来た!」を挙げています。


  B‐6  恋はサーフィンに乗って  作詞:東海林良  作曲:井上忠夫  編曲:竜崎孝路

 さて、ラストの曲のリード・ヴォーカルはまたまたミキです。この夏のアルバムも最後は爽やかに締めくくられるのかと思いきや、「あいつに海に誘われた 断れない二人きりサーフィン♪」といきなり危険なムードです。キャンディーズの歌には相手の男性を「あいつ」と呼ぶ曲がいくつかありますが、大抵は「あいつはあいつはかわいい年下の男の子」だったり、「内気なあいつ」だったりするわけです。しかし、今回の「あいつ」はかなり危険な男のようです。仲間たちと一緒だと嘘をついたり、女の子のあしらいが上手かったりします。それに対して、サビの部分でラン「あぁ今度こそはキッス奪われそう 逃げられない あぁ海じゃ女の子は大胆よ♪」なんて歌い、ミキ「あいつはそれがつけめなの 解ってるわ 強引な奴なの♪」と続けます。さぁ、どうなってしまうのか、キャンディーズ!というところで、このアルバムは終わります。で、ライブ盤をはさんで次のオリジナル・アルバムのタイトルが『やさしい悪魔』だったりするわけですが…。ちなみに、『CANDIES PREMIUM-ALL SONGS CD BOX』ではアルバム『夏が来た!』の他の11曲がDisc4に収録されているのに、なぜかこの曲だけアルバム『やさしい悪魔』の楽曲に交じってDisc5に入っています。


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